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 5.
 
 少しだけ、シローくんはそのままだった。それから、ちょっとだけ息を吐いて、私をゆっくりと離した。
 「え?」
 思わず問いかけて見上げる。
 「その、これ以上こうしてると、我慢できなくなりそうなので」
 シローくんが言った。
 少し困ったような顔。多分それはシローくんなりに、気遣ってというか、私を大事にしてくれてるってことなんだと思うけど。
 
 「いいよ」
 「え?」
 「イヤじゃ、ないよ」
 言ってしまってから、恥ずかしくなった。
 「本当に?」
 ……そんな風に聞き返されると、私がヤラシイ子みたいじゃん。
 でも、シローくんは少しためらうみたいに、私に手を伸ばせないでいる。どんどん恥ずかしくなるんだけどっ、と思ったその時、あることに気づいた。
 
 「あ、でも私、シローくんの気持ち、聞いてない」
 こんなことに気づくって事は、多分余裕が出てきたんだな、と我ながら笑ってしまう。
 「えっ?」
 シローくんはそのまま、固まってしまった。
 「私のこと、どう思ってるか分からない人とは、やっぱイヤかな」
 それは「言ってくれたらイヤじゃない」って意味も含んでいるんだけど、それに気づいたのか気づいていないのか。
 その言葉が引き金になったみたいに、シローくんはもう一回私のことを思いっきり引き寄せて、抱きしめた。
 
 「好きです、本当に」
 「うん」
 私も負けじと抱きしめ返した。うわー、すごく嬉しいかも。
 シローくんの気持ちを疑ったことはなかったけど、こうやって言葉にしてもらえるのは、やっぱり嬉しい。
 
 深く、唇を重ねる。
 角度を変えるたびに、シローくんの指が、私の髪の毛をとかすように撫でる。それだけのことでも、うっとりするくらい気持ちが良かった。
 「本当に、いいんですか?」
 耳元に、吐息がかかる。こっくりとうなずくと、その瞬間、私の体は軽々と浮いて、ベッドの上に下ろされていた。
 
 普段あまり見ないような真剣で熱っぽいシローくんの視線にくらくらする。私も、我慢できないかも知れない、とふとそんなことを思った。
 
 シローくんの指が、私のヘンリーネックの胸元のボタンを外す。
 「いい?」
 そう言って、首からシャツを抜かれて、私は下着姿になった。恥ずかしいけど、シローくんの目が、一瞬まぶしそうに細められたのを見て、まぁいっかと思う。
 勝負下着とかじゃないけど、一応かわいいのを着けてきて良かったと思った。
 指が、ブラの下へともぐってくる。その指先はあくまでもやさしい。それがまるで焦らされているみたいで、先端へとたどり着いたとき、私は思わず声をあげてしまった。
 
 ふふっと笑うみたいに、シローくんが私の額に唇を落とした。
 「もっと、聞かせて」
 恥ずかしくて首を振ったら、
 「誰もいないから、大丈夫」
 とシローくんは言った。その顔は、少しいたずらっぽく笑ってる。
 「っ!」
 そう、シローくんは「今日は誰もいない」って言ってた。それはこんな含みもあったんだって気が付いて、ますます恥ずかしくなった。
 
 ブラごと、私の胸がシローくんの手のひらの中で形を変える。フロントホックだから、外そうと思えばすぐ外れるだろうに、なかなかシローくんは外そうとしない。指先で先端を撫でられて、ずるっとブラが持ち上げられたときには、私の胸はくっきりとその存在を主張するくらいに起ちあがっていた。
 「気持ちいい?」
 うなずくしか出来なかったけど、シローくんは嬉しそうに笑って、やっとブラを外す。隠そうと思ったけど、手をそっと押さえられた。
 シローくんの舌先が、先っぽを弄るように転がす。
 「あぁっ、やぁ……」
 それだけのことなのに、体はすごく焦らされていたみたいで、びくんと反応してしまった。
 
 もしかして、シローくんって、うまい? なんてそんなことを思う。でもそれ以上あれこれ考えていられなくなった。シローくんの指は、私の下半身にもぐりこもうとしていたから。
 Gパンのボタンも難なく外されて、シローくんの指だけが下着の線をたどる。
 「やっ」
 思わず反射的に声が出たけど、シローくんはそんな私の反応を見て、なんだか楽しんでいるみたい。
 「いや?」
 耳に唇を当てて、ゆっくりとささやくように尋ねる。その直前、耳たぶをぺろりと舐められて、私は半分はパニックで、半分は腰が抜けてるんじゃないかと思うくらいメロメロになっていた。
 
 「やっ、じゃない、けど、……反則」
 自分でも、もう何が言いたいんだか、って感じ。
 「反則?」
 そう言って、シローくんがくすっと笑った。
 「だって……っ、やんっ、ん」
 下着の中に、指、入ってきて、強く刺激された。その感触が……はっきりと私のぬかるみを示していて、もう、十分すぎるくらい濡れているのを感じる。
 痛いくらいの刺激なんだけど、その粘液とそれからシローくんの唇が私の耳をいたぶっていて、それにどうしようもなく感じていて――
 「ね、もう、ダメ――」
 そう言ったのに。
 シローくんはやめてくれなかった。
 「あ……っ、やっ、いやぁっ」
 それどころか、指が入ってきて、もっと強い刺激を与えられて、私は達してしまった。
 
 「も、やだぁ」
 指だけでイカされた恥ずかしさで、私は悶絶しそうなのに、シローくんはぜんぜん気にしてないみたいで
 「イッちゃった?」
 とだけ言った。
 訊くなー、って思ったけど、それは言葉に出せなくて、シローくんを見上げたら、目尻に口付けられた。
 「繭子さんの、顔、見ちゃった」
 すごく嬉しそうな顔で、そんなことを言うから、私はますます何も言えなくなってしまう。
 
 「腰、上げて?」
 Gパンを脱がされて、下着も脱がされて、いよいよかな、と思ったのに、シローくんはまだ一緒になろうとはしなかった。
 指が、くちゅくちゅと敏感なところを這い回って、私はまた、昂ぶって行く。
 「ねぇ、もう、……お願い」
 さっきはイッちゃったけど、――だからなのかも知れないけど――私の体は、指だけだったら満足できないみたいに、さっきからひくひくとしてる。
 「そう?」
 シローくんが尋ねた。
 その顔は少しいやらしくて、でもどこかあどけなくて、その表情が余計に私の羞恥をそそる。
 私は声に出せなくて、ゆっくりとうなずいた。
 シローくんはちょっと待ってと言って、ベッドサイドに手を伸ばしてから、ズボンを脱いだ。
 
 その間は、なんとなく気恥ずかしいけど、上に来ていたTシャツを脱いだとき、シローくんの表情がすごくオトコっぽく見えて、それだけで、また体の奥がきゅっとした。
 「いくね」
 シローくんのモノが、ゆっくりとかき分けて入ってくる。それはやっぱり私を焦らしているみたいだと思った。
 「んんっ、……っあ……」
 声が漏れる。奥まで届いたのに、シローくんはゆっくりと私を抱きしめて、あまり動こうとしない。
 「あぁ、ん」
 「気持ち、いい?」
 「いい、よ」
 シローくんがゆっくりと体を数回揺らした。その度に、中から引き出される快感に翻弄されるみたい。
 
 シローくんはそんな私を満足そうに見下ろして、それからおもむろに私の腰を掴んで、シローくんの膝の上に乗せた。
 「やだ、はずかしいよ」
 そう言うと、シローくんはぎゅっと私を抱きしめた。
 「恥ずかしく、ないよ」
 自身の体重とシローくんの力で、結合がより深くなって、思わず喘ぐ。
 
 「っあ……それ、ダメっ」
 シローくんの唇が首筋をたどって下へと降りる。ちょうどシローくんの顔の前、私の胸の先を、シローくんがこりっと噛んだ。
 また、波が来てる。私の体の奥底が、どきん、どきんと何度も跳ね上がるような感触。
 「俺も、だめ、かな」
 小さくシローくんが言って、その瞬間、体が大きく揺さぶられた。突き上げてくる感触にただ、なんども、なんども悲鳴を上げる。
 私の頭の中が真っ白になるのと、シローくんが息を呑んだのは、殆ど同時だった。
 

 「もうっ、シローくんのエッチっ!」
 ベッドの中で、私は少し怒ったふりをする。
 「え? ……だめ、でした?」
 シローくんのその表情は、少し不安そうな顔で、私はその顔を見て、噴出してしまった。
 「……いいけど」
 でも、絶対に普段とは人が変わってると思うんだけどな。
 
 「いや、やっぱりその……せめてソレくらいでは頑張らないとな、とか思って」
 シローくんが言った。
 なんとなく、ひっかかりを感じる言葉。別に……「ソレくらい」って言うこともないんだと思うんだけど、とか、じゃ、何だったら頑張ってないんだろう、とか。だから
 「ソレくらいって……」
 って言って思わず笑ったら、シローくんは少し照れたみたいに視線を外した。
 
 その、会話の本当の意味が分かったのは、それから少し経ってからだった。
 二人で、Tシャツと下着だけの格好で、ベッドでいちゃいちゃしつつ、いろんな話をして、アルバムなんかまで見せてもらって、ふと。
 「そういえば、シローくんって何歳なの?」
 
 年下かなぁと思ってた。でも、いくつ違うかは、よく分からなくて。
 話聞いていると、少し違和感あるし。
 「27、ですよ」
 
 え?
 「年上?」
 思わず問い返した私の言葉に、今度はシローくんが驚いた。
 「え? 年下?」
 
 「年下かと思ってた」
 「年上かと思ってた」
 二人の声が重なる。
 「繭子さんって、……いくつ?」
 「……25」
 「一つ上くらいかと思ってた」
 二人して、顔を見合わせる。
 「あはは」
 笑い出したら止まらなくて、しばらく二人で笑った。
 
 「なんだぁ、そっかぁ」
 分かってしまえばそんな気もするけど。
 「ね、ね、シローさんって呼ばないとダメ?」
 「じゃ、繭子さんのことは、『繭子ちゃん』?」
 くすくすとシローくんが笑う。
 「シローくんでいいですよ。っていうか、それでお願いします」
 シローくんがそう言って、困ったような顔をするから、私はやっぱりシローくんはシローくんだなと思って、ますます好きになったかも、なんて考える。
 
 「絶対年上だと思ってたから、俺、結構悩んでたのに」
 ぼやくみたいにシローくんが言った。
 「え、そうなの?」
 私は年下かもと思ったけど、あまりそんなことは思わなかったけどな。
 「やっぱオトコとしては、あんまり情けない所、見せられないじゃないですか」
 シローくんがそう言って、そういえば何回か、そんなこと言ってたなぁと初めて気づく。
 「ま、いいんですけど?」
 シローくんがふふっと笑った。
 「ご満足いただけたみたいだし」
 その笑顔に、ちょっとだけヤラシイものを感じて、頬が熱くなった。
 やっぱり、人格ちょっと違うかも。
 
 ……それこそ、いいんだけどね、と思った。
 
 ―――――― Fin.

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